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Asuka

【イベント】ドロテアとテオドール 2(前記)

引用元:別ウィンドウで開く https://asuka.uojapan.com/?p=2869
2026.10.26

ドロテアは、幼い頃から魔物と一緒に育った。

それは、ドロテアと両親が家族の一員として大切にしていた魔物だった。
庭を駆ければ後ろからついてきた。泣いているときにはドロテアの隣に座り、夜になれば家の
戸口で家族を守るように眠った。
ドロテアにとって、人と魔物が心を通わせることは、少しも不思議ではなかった。

けれど、世の中にはそれを受け入れられない者たちがいた。

ドロテアが十三歳になった年、両親は彼女を女学校へ入学させた。
同年代の少女たちが集い、ともに学び、友情を育む場所。
ドロテアも、そこに新しい友達と新しい世界が待っているのだと信じていた。
だが、その教室は自分たちと違うものを見つけ、裁き、同じ色へと染める場所でもあった。

入学して間もないある日、生徒執行部を名乗る少女たちが教室を訪れた。
彼女たちは、よく通る声で語り始めた。

「私たちは、常に正しく、『清らかな存在』であらねばなりません。
 皆さまもご存じのとおり、私たちにとって何より尊いもの、それは『ともだち』との絆です。
 そして、この教室に集う私たちこそが、その尊い絆で結ばれた『ともだち』なのです。」

「ですから、私たちの想いを理解なさらない方がいらっしゃるのは、とても悲しいことです。
 私たちと心をひとつにできない方。
 私たちの輪を乱し、調和を損なう方。
 私たちと同じ色に染まることを、頑なに拒まれる方。
 そのような方々は、少々、慎みというものを欠いています。」

「皆さま、おわかりになりますでしょう?
 自らの身勝手な振る舞いで、私たちの美しい調和を乱すこと。
 それこそが、私たちの正すべき『悪』なのです。」

「この由緒正しき女学校に、そのような不調和をもたらす存在はふさわしくありません。」

「ですが、どうかお心を痛めないでくださいませ。
 私たちが冷酷なのではございません。
 その方が『悪』であることを、自らお選びになったのですもの。
 私たちは、ただ正しいことをしているだけなのです。」

「さあ、皆さま。
 私たちの『清らか』な友情と、この美しい学び舎を守るために。
 私たちの中に紛れ込んだ『悪』を見つけ出し、取り除きましょう。
 それこそが、正しき『ともだち』である私たちの、果たすべき務めなのですから。」

それは規律を説く言葉のようでいて、実際には、次に誰を仲間外れにするかを決める宣言だった。

彼女たちは、魔物を、人を襲うだけの悪しき存在だと認識していた。
そして、魔物にも心があると話したドロテアを、『悪』を擁護する者として認識したのだ。

何を家で飼っているのか。
なぜそんなものを家族と呼ぶのか。
人間より魔物の方が大切なのか。

質問の形をした詮索が、毎日のように続いた。

返事をすれば言葉尻を捉えられ、黙れば罪を認めたと糾弾される。
机には汚れた言葉が書かれ、持ち物は隠され、ドロテアと友達になろうとした少女たちまで、
彼女たちに逆らえば次は自分だと脅された。

だが、彼女たちは教師の前では礼儀正しく振る舞った。
すべては注意であり、指導であり、学校の正しさを守るためなのだと説明した。

一年後、十四歳の終わりを迎えたドロテアは、女学校を自主退学することになった。

両親が馬車で迎えに来た日、彼女はようやく息をつくことができた。
これで家へ帰れる。
家族のもとへ、幼い頃から一緒に育ったあの子のもとへ帰れる。

しかし、両親の馬車から人が離れた際に不幸は訪れてしまう。

「あら、ご覧になって。あちらに停まっている馬車は、あの方をお迎えにいらした馬車では
 なくて?」

「まあ、本当ですわ。ふふっ、皆さま、少し悪戯をして差し上げませんこと?」

「素敵ですわね。車軸に少々細工をして、帰り道に困っていただくのはいかがかしら?」

「あら、それは少々お気の毒ではなくて?」

「まあ、何をおっしゃるの? 私たちは正しいことをするだけですわ。」

彼女たちはドロテアの乗る馬車の車軸に細工を施し、車輪が外れるようにしてしまった。

「ふふっ、ご覧になって。これでもう、あの方の馬車も無事では済みませんわね。」

「まあ、少々やりすぎではなくて?」

「あら、何をおっしゃるの? そもそも悪いのはあの方でしょう? 私たちの友情を踏みにじった
 のですもの。これくらい、当然の報いですわ。」

「それもそうですわね。私たちは何ひとつ間違っておりませんもの。」

「ええ、私たちは正しいことをしているだけ。たとえ何が起きようと、それはあの方が招いたこ
 とですわ。さあ、皆さま、参りましょう。ふふっ、帰り道が楽しみですこと。」

馬車は女学校を離れ、峠道へ差しかかった。
そのとき、不意に片方の車輪が外れた。
車体は大きく傾き、御者が手綱を引く間もなく道を逸れた。
馬の悲鳴。砕ける木材。両親の叫び。

馬車は崖を滑り落ち、そのまま谷底へ消えていった。

「まあ、お聞きになって? あの方の馬車、峠で事故を起こしたそうですわ。」

「なんてお気の毒。でも、あの方、魔物と一緒にお育ちになったのでしょう? どこまでも災いを
 招く方ですこと。」

「そういえば、あの方も私たちの『ともだち』ではございませんでした?」

「ええ、私たちの言葉に素直に従っていらした間だけでしたわね。」

「ねえ、皆さま、ご存じです? 『ともだち』を選ぶ際には、大切な心得がございますのよ。
 それは、ご自分よりほんの少しだけ『劣った』方をお選びになること。
 そうすれば、私たちの思うままに導いて差し上げられるでしょう?
 それこそが、正しい友情というものですわ。」

「ふふっ、あの方も素直に従っていれば、あんな目に遭わずに済みましたのに。」

少女たちの楽しげな笑い声が、学び舎に響き渡った。
彼女たちにとって、あれはほんの些細な悪戯にすぎなかった。
峠で起きた悲劇さえも、正しい自分たちに背いた少女が招いた、当然の報いでしかなかったのだ。
なぜ車輪が外れたのか。
誰が留め具に手をかけたのか。
その真相が明らかになることはなかった。
しかし、その悪戯はドロテアの両親の命を奪い、ドロテアの身体の自由を奪ったのだった。

ドロテアは一命を取り留めた。
意識ははっきりしており、耳も聞こえ、誰かが瞼を開いてくれれば目も見えていた。
しかし、瞼を自分で開くことさえできず、声を出すことも、指先を動かすこともできなかった。
そのため彼女は、意識のない状態だと診断された。

それからおよそ十年。
ドロテアが二十代半ばとなり、二十代後半の医師テオドールが瞳の反応に気づくまで、彼女の
意識は動かない身体の中に閉じ込められていた。

そして年月が過ぎてもなお、「彼女たち」は自分たちこそ正しいと信じ続けていた。
かつて「悪」であった少女が、今度はオートマタというおぞましい魔物になり果てて存在して
いる。
ならば再び、自分たちがこの世界を正し、清らかな存在に戻さなければならない。

彼女たちがそう考えていることを、ドロテアはまだ知らなかった。

この記事は、イベントを企画している「イベントモデレーター」のブログのページを引用しています。

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