王室広報官です。
今回はモンちゃんからの依頼で、川柳に長けた冒険者さんを募集とのことです。
ミリョクさんとモンちゃんが、ルナの宿屋で借りた冒険譚を元にグリムスウィンズを調査したところ、地下に封じられた、いにしえのお姫様が出てきました。
彼女はわけあって地下に封じられていたようなのですが、「素敵な句をもう一度、聞かせていただきたいのです。わたくしにはもう時間がないのです」と言って川柳の句をもう一度聞きたいと言うのです。
このお姫様の瞳には困った力が宿っており、ミリョクさんは現地に残り対処しています。
お姫様とミリョクさんを助けるために、川柳のできる冒険者の方を募集しております。
皆さまのご参加をお待ちしております。
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◆開催日時:8月22日(金)22:30~ 時間にご注意!
◆集合場所:Britain広場
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注意事項:
◆ 予期せぬ出来事が発生するかも知れません!貴重品はなるべく持ち込まないよう、お願いします。
◆ 以下に該当の場合、あるいはEMが問題ありと判断した場合はコールのうえ、イベント中止の措置を取らせていただく場合があります。
- イベント進行の妨害、かく乱行為。
- EM、あるいはほかのプレーヤーに対する侮辱的発言、またはそれに準ずる行為。
◆ 皆さんのイベントです。マナーを守って楽しく参加しましょう!
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プロローグ
ミリョクとモンちゃんは、ハンスホステルを発ったのち、寄り道を重ねながらようやくルナのエリアへと足を踏み入れていた。
途中、ブリガントに襲われながらも一句をひねり出したモンちゃんは、自分の成長にひそかに胸を張っていた。
一方、ミリョクは……。
「ほんと、肝を冷やすわよ」
無鉄砲にもほどがある相棒に、ため息をこぼすばかりだった。
本来ならホステルからルナまでは、のんびり歩いても一日で到着する距離だ。だが、モンちゃんの「ここも行きたい!」「あっちの岩山も気になるもん!」という好奇心に振り回された結果、到着まで五日もかかってしまった。その大半は野宿である。
唯一まともに宿を取ったのは、リワードホールと呼ばれる観光施設での一夜だけ。展示品を前にモンちゃんは大興奮し、ひたすら句を作っていた。
「あら不思議 こんなところに なぜ波が」
そのときの、冬の冷気のような寒さを、ミリョクはいまも忘れられない。
そんな二人だが、ルナのエリアで満足できる川柳を作った後は、ムーンゲートを使ってブリタニアへ向かう予定だ。
まずは、消耗したアイテムの補充と、連日の野宿で疲れ切った体を休める必要がある。宿泊費をなるべく抑えるため、二人が選んだのは外周にある雑貨屋兼民泊施設。元冒険者のエルザが営んでおり、冒険に必須の道具が安価で揃うありがたい店だ。
さらに宿泊者向けには貸本棚まであり、モンちゃんはそこで一冊の本に目を留めた。
『とあるトレジャーハンターの冒険録 最終章』
以前、ホステルで見かけた本と同じ背表紙だった。
「……屍のバシネット姫……」
モンちゃんは目次を眺め、ミリョクの方へくるりと振り返る。
「これ借りたいもん!」
「またそれ? ……でも、川柳のネタ探しかしら」
瞳を輝かせるモンちゃんを前に、ミリョクには拒否という選択肢はなかった。
店主エルザに声をかけると、彼女は懐かしそうに笑った。
「それは昔、トレジャーハント生業とする冒険者の手記さ。うちには最終章しかないけどね。私が現役だったころ、腐り家で偶然見つけたんだ。屍のバシネット姫……、気になって調べたけど、新しい発見はなかったよ。それと、あとがきの部分は意味が解らないから読み飛ばした方がいいかも知れないね、作者のちょっとしたギミックかも知れない」
そこでエルザは口元に指を当て、冗談めかす。
「おっと、これ以上話すとネタバレになっちゃうね。部屋でゆっくり読むといいさ」
「そうします」
拾った本にお金を払うのかと、違和感を覚えたが、ミリョクも読んでみたいと思ったので素直に支払った。
それから、酒場ブースで軽く食事を済ませ、二人は部屋に戻った。
さっそく本を開くモンちゃん。その姿を見ながら、ミリョクはふと尋ねた。
「そういえば、モンちゃんって文字はどこで覚えたの?」
「遭難したおっちゃんに教わったの」
あっけらかんと答えるモンちゃん。いじわるな天使の嫌がらせで、島に閉じ込められ、そこで遭難者のおっちゃんに教えられたらしい。改めてモンちゃんを見ると、本当に不思議な子である。ピンク色だし……。
やがて二人は、同じペースでページをめくっていった。
屍のバシネット姫の物語は、いまから約三百五十年前。物語が書かれた五十年前で、すでに三百年を遡る時代が舞台となっていた。著者はすでに他界しており、まさしく最後の冒険録だったのだろう。
舞台はルナの東方に浮かぶ島、グリムスウィンズ遺跡。麒麟やユニコーン、ピクシーが生息する以外は特色のない場所とされているが……
挿絵に描かれた街並みは、今のルナによく似ていた。むしろ当時はグリムスウィンズの方が栄えていたらしく、規模は現在のルナの倍近くあり、マラス最大の都市だったと記されている。
逆に当時のルナは、まだ村の規模だったようだ。
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最終話 「屍のバシネット姫」
これは、私が最後の冒険で、遺跡の地下に封じられたお姫様から聞かされた、恐ろしくも儚い話を物語にしたものである。
彼女の名はミリョク。
かつてマラスの端に栄えた都市国家《グリムスウィンズ》の貴族の娘にして、最後の姫君。
三百年前。
今や瓦礫に沈むその都市は、当時は石造りの荘厳な建築が並び、人と物と欲望が渦巻き、マラスの端に位置するのに、街は人でごった返し賑わっていました。
『グリムスウィンズに行けば、全てが揃う』と言われるほど物があふれ、魅力に満ち溢れた街。誰もが羨む楽園。それがグリムスウィンズです。
そして、繁栄の中心にいたのが……、あのお姫様でした。
お姫様は、たいそう美しく、市民に慕われていたそいうです。その特徴は瞳にあります。
深紅のそれは、とても魅惑的で、ただ見つめただけで、心がふわりと浮き上がり、多幸感に支配され、それは、まるで天にも昇る心地になるらしいです。
鍛冶屋のオヤジは、最高傑作の一振りをお姫様に捧げました。宝石商は店にある最高級の石を捧げ、吟遊詩人はお姫様を称える歌を捧げました。冒険者は戦利品を奉納し、川柳作家は句を捧げます。
騎士たちは街の治安よりも、お姫様の護衛を優先し、街の参事会もお姫様を称える条例を制定します。アンクに至っては信仰の対象にお姫様を加え、神に準ずるものとして扱いました。
その噂はアンブラにも伝わり、ネクロマンサー達も一目見ようとこっそり訪れたそうだです。
お姫様は、充実した優雅な日々を過ごしていたと思われがちですが、実は部屋でひとり嘆くことが多く、誰もそのことに気づきませんでした。
「みんな、私の瞳にしか見ていない……」
贈り物も称賛も、すべては瞳に向けられたもの。誰も、私の内面は見てくれない。
それは祝福ではなく呪いのようなものです。
唯一、川柳の作家だけは彼女の内面を見て句を詠んでくれました。……けれど、やがて彼さえも他者と同じになってしまったのです。
そんなある日、お姫様は街を訪れていた魔女のお姉さんに、自身の瞳について相談をしました。お姉さんはお姫様を診て、厳しい表情で瞳のことを伝えました。
「あなたのそれは魔眼の類だわ」
お姫様は心当たりがあったので、驚きませんでした。
子供の頃、お姫様は森で極彩色の体に深紅の瞳を持つ麒麟の幼体と出会いました。見た目だけでも怪しいそれは、人の言葉を操っておりました。あまりの怪しさにお姫様は警戒をします。けれど、その声は甘く、お姫様の胸をくすぐるものでした。
「僕の瞳が気になるようだね。お願いを聞いてくれたら、瞳の力を分けてあげてもいいよ?世界が驚くほど美しく見える。しかも、みんな君に優しくしてくれる」
「優しくしてくれる?」
心臓が強く脈打ったのを感じました。
お姫様は、生まれつき左目がほとんど見えず、右目もおぼつかなかった。家族は妹ばかりを可愛がり、目に障害を持つお姫様は見向きもされませんでした。周りの者も同様の態度でした。当時はまだ、障害を持つ者への配慮というものが存在しなかったのです。
『もしも』お姫様の視力が普通であれば、このような寂しい思いはしなかったでしょう。
お姫様は悩みます。
あからさまに怪しい麒麟。一旦は断ろうかと思いましたが、どうしてもお願いの内容が気になるので聞いてみることにしました。
「簡単なことだよ。僕と契約して君の生命エネルギーをほんの少しだけ分けて欲しいんだ。普段の生活に影響はないよ、と思います。それと、君……、お姫様の行動次第ですが、周囲への影響なども少ないと思う、います。これは僕が生きていくために必要なものです。どうかお姫様のエネルギーを僕くに分けてください。これは嘘では……う」
言って、麒麟は口を閉ざすと同時に、こうべを垂れました。なんだか様子のおかしい麒麟に、お姫様は違和感を覚えましたが、同意することにしました。
魅力的な『もしも』の世界への誘いを断ることができなかったのです。その結果、薄暗く色あせたお姫様の瞳は、麒麟と同じ深紅となります。
ところが、お姫様の双眸を見た麒麟に異変が起こります。
体が光り出し、最後は粒となって消えていったのがはっきりと見えたのです。
「お姫様に全てを捧げます…」という言葉を残して。
お姫様は困惑しましたが、麒麟の願いが成就されたのだと思うことにしました。生命のエネルギーが気になりましたが、体に特に異変はありません。視力も回復しましたし、お姫様は安心したのでした。
『もしも』の世界は現実となったのです。
お姫様は久しぶりに幸せな気分になりました。世界は美しく見え、両親や周りの人も、お姫様のことを大切にするようになったのです。全てが理想通りになりました。
それからも、日々の生活は順調に進みますが、お姫様は成長するにつれ、周囲の人たちの対応に違和感を覚えるようになっていきます。
「みんな優しくしてくれるけど、私の瞳をみているだけで、本当の私を見てくれていない気がする……」
お姫様は、麒麟との出会いや、その後の変化について、詳しく魔女のお姉さんに伝えました。すると、お姉さんは先ほどとは異なり満面の笑みになりました。
「お姉さんに任せておきな……、ください。その素晴らしい、あなた……、お姫様の瞳は世界をより良い方向へ導くでしょう」
お姫様は、先ほどとは異なるお姉さんの雰囲気が腑に落ちませんでしたが、依頼したからには任せることにしました。
魔女は呪文を唱えると、お姫様が光に包まれます。
この時のお姫様は気づけませんでしたが、その腑に落ちない感覚は正解で、魔女のお姉さんは既に魅了されていたのです。
実は当初、魔女のお姉さんは、お姫様の瞳を封じるつもりでした。
お姫様の話に出て来た麒麟は悪魔の類と推測。特殊な力の素地を持つお姫様を利用して、生命エネルギーを奪う算段だったのでしょう。ただ悪魔の誤算は、力をお姫様に与えたのち、自身が魅了されてしまったことです。
麒麟はお姫様を誑かし、生命エネルギーを奪おうとした自身のことを恥じ、お姫様に全てを捧げ消滅したのです。最後に光りながら消えたのはそういうことなのでしょう。
そして、お姉さん自身も……。
このお姫様は、いったい何者なのでしょうか。偶然に生まれたのか、それとも……。
しかし、天にも昇るような感覚になった魔女のお姉さんは、お姫様についての思考を止めます。そして、お姫様の神々しい瞳の力が多くの民に届くようにと、増幅と拡散の魔法をかけたのです。
それからのお姫様は、以前にも増して戸惑いを覚えるようになりました。お姫様を称賛する者が続々と押し寄せたからです。ついには、Doomから人に扮した者まで訪れるようになってしまいます。
これは異常なことです。
そこで、お姫様は魔女のお姉さんを探したのですが、既にこの世を去っていました。弟子によると、お姫様の瞳の力を封じようと考えた己を恥じて、光の粒となり消滅したらしいです。
その弟子も、お姫様の眼前で師匠のことを恥じ、お詫びをしながら光の粒となり消滅してしまいました。
なんでみんな、光の粒になって消滅するのだろう……。ひょっとすると、あの時の麒麟も?
「もういや……」お姫様はつぶやきます。
私が何をやってもうまくいかない。私自身が消滅してしまいたい。だけど、責任感の強いお姫様はそれができませんでした。
このままでは、グリムスウィンズが滅亡すると察したお姫様は、責任を取るため封印の効果を持つバシネットを自らかぶり目を隠すことにしました。
しかし、お姫様の成長とともに、力を増した瞳はバシネットで隠したところで抑えるのは厳しいものがあります。精々魅了されるまでの時間が少し延びる程度でした。
それから数ヵ月後。
グリムスウィンズ全体の魅了が意図せず完了してしまいます。魅了された市民は食事を摂ることを忘れために餓死し、多くの市民が屍となっていきました。
ただ、不思議なのですが、屍になっても動くのです。深紅の瞳をひと目見ようと集まる屍たちを前に、お姫様は絶望してしまいます。そんな、救いようのない日常に変化が訪れたのは、数日後のことでした。
部屋のテラスから、アンブラの長の親書を持った使者が現れたのです。屋敷の周辺は屍で埋め尽くされていましたから、やむを得ずといったところなのでしょう。
使者は息も絶え絶えの状態であったため、お姫様は心配しますが、親書を手渡した瞬間安堵の表情となり、光の粒子となって消滅してしまったのです。
最後の言葉は「やっと届けることが出来きました。あなたに全てを捧げますと……」
「まただわ……」お姫様はつぶやき、深い絶望感に襲われます。
この頃になると、お姫様に近づく者は皆消滅してしまい、身の回りの世話をする者はいなくなっていました。食べるものが無くなったお姫様はやせ細っていたので、届いた親書を開封するだけでも一苦労です。
親書にはマラス全域の近況が記されており、この事態の解決方法が提案されていました。どうやら、お姫様の影響はマラス全域へと広がりを見せていたようです。
グリムスウィンズから比較的近いルナ村は、既にお姫様の影響を受けていること。アンブラのネクロマンサー達は、Doomと協力し、お姫様を封じるための対策部隊を立ち上げたこと。グリムスウィンズへ調査員を潜入させていたこと。その調査の結果、地下は瞳の影響が及びにくいということ。
地下については、お姫さまも驚きました。
問題を解決する方法として、グリムスウィンズを元市民の屍ごと地下に特殊魔法で転移させ封印。転移後はグリムスウィンズ自体を陸地から切り離すことが提案されていました。
これにより、他のエリアへの影響は抑えられるだろうという結論に至ったのでしょう。
全文に目を通したお姫様は安堵しました。
「ついに解放されるわ……」お姫様はつぶやき、返信を書きます。
わたくしが原因でマラス全域が滅亡するのは耐えられません。皆さまの提案を受け入れます。全てを地下へ葬ったのち、犠牲となった全ての者たちの弔いをおねがいします。
手に力が入らず、まともに文字が書けなくなっていたので、何度も書き直してやっと読めるような文面ができあがったのです。お姫様は自分を褒めました。問題は、これをどうやってアンブラに届けるかです。
ふと、お姫様は使者が屍を避けてやって来たことを思い出し、テラスに手紙を置きました。翌日見ると無くなっていたため、使者が持って行ったのだろうと思い安心しました。
数日後、グリムスウィンズは淡い光に包まれ地上から姿を消します。
その瞬間、屍の集団から無数の光が、マラス周辺に広がる星の彼方へ飛んでゆく光景を見たお姫様は思わず「まぁ、綺麗」と、つぶやき笑顔になりました。この感情はいつ以来だったか、お姫様は思い出すことができませんでした。
しかし、感傷に浸る間もなく周囲は地下に埋まり真っ暗になります。
親書にあった解決方法が成功したのだと思い、お姫様は嬉しくなりました。あとはお姫様自身が、光の粒となり消滅するだけです。しかし、待てど暮らせどその時はついに訪れませんでした。お姫様は、ついに思考することを止めてしまいます。
どれくらいの時間が経過したのか分かりませんが、気がつくと目の前に冒険者と思われる女性が立っていました。彼女はわたくしに問いかけます。
「そのバシネット、あなたはミリョク姫ですか?」
ずいぶんと懐かしい名前を聞いたお姫様は、それが自身の名であったことを思い出し頷きました。それから冒険者の質問攻めにうんざりするのですが、良き思い出について尋ねられ、ふと川柳作家の句を思い出し口にしていました。
「仮面舞う 姫の瞳に 雪の影」
「唐突にどうしたのですか、お姫様?それは川柳ですか」
冒険者の問いに、お姫様は頷きました。
「わたくしのことを、しっかりと見てくださっていた作家の句ですわ。また、わたくしのことを本当に思ってくださる方の句が聞きたいですわね」
言って、お姫様が静かに瞳を閉じると、付近は再び静寂に包まれたのでした。質疑応答も強制終了になります。
お姫様は、今もグリムスウィンズの地下で静かに眠っておられることでしょう。屍とともに……。
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あとがき
これで解決すれば良かったのですが、そう簡単ではありません。
話し相手は屍のバシネット姫。
どうやら私も魅了されてしまったようだ……、です。この天にも昇るような感覚がたまら……、りません。
最後の冒険に、ここを選んだのは大失敗でした。
宝を見つけるどころか、魅了されてしまったのだから大損です。赤っ恥です。こんな不敬なことを思ったら私も光の粒になって消滅するかも知れません。その前に遺跡を出るとしましょう。入口はきっちり埋めておきましょう。
一説によると、グリムスウィンズを地下へ封じる時、動員された者たちの半数は魅了され、元市民たちにと同様に屍となったそうです。
そのような犠牲を払って封じたものを、開けてしまった私はなんと罪深いのでしょうか。
いえ、お姫様を目覚めさせ、また活躍を……、いえ、それはいけません。
お姫様は瞳の力を抑えるためバシネットを被り、魂の抜けた屍に囲まれ地下で眠っています。この先もずっと居続けるでしょう。三百年も経過しているので、既に人ではなくなっているのでしょうけど、その美しさは今でも感じ取ることができます。
私はいったい何を書いているのだろうか……。あとがきを書くだけで混乱しております。お姫様に復活していただくか、このまま眠っていただくか。このまま静かに眠っていただいた方が良いに決まっています。
これを読んだ者に警告です!グリムスウィンズの地下を掘ってはなりません。
屍のバシネット姫に近寄ってはいけません。
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「モンちゃん……、なんだか切ないお話だったわね」
「うん。しかも、お姫様の名前がミリョクさんと同じだったのにビックリだもん! あの川柳、素敵!お姫様の中身をちゃんと見てるもん」
ミリョクは物語の内容に困惑の表情を浮かべながら、小さく頷いた。
「そうね……。作家は確かにお姫様を見ていたのかもしれない。まだバシネットを被っていない時期だけど、内面に形成されつつあった仮面を、見抜いていたのかしら」
彼女自身もまた、ミリョク姫に強く惹かれていた。なぜなら、幼いころ祖父から聞かされていたからだ。
『お前と同じ名前の姫が、滅びた街にいたのだ』
その街こそが、グリムスウィンズ。本に記された物語は、フィクションではなく、事実を含んでいる可能性があった。
グリムスウィンズには確かに街が存在した。
しかし大災厄に巻き込まれ、都市ごと地下に沈み、最終的に地図から姿を消した。残された瓦礫は、やがて遺跡と化した。実際はそんなところだろうか……。
そんな考えを巡らせていると、隣のモンちゃんが、決意を固めたように顔を上げた。
「ミリョクさん、明日グリムスウィンズ遺跡に行ってみない?」
「そうね。日帰りは無理だから、野営の準備をして行ってみようかしら」
そして二人は、顔を見合わせて声を揃えた。
「ゲートが出たらとにかく入れ!」
「行くなと言われたらとにかく行け!」
ーーー
翌朝。雑貨屋を後にした二人は、遺跡を目指した。
店主に目的地を伝えると、思い出したようにこう言われた。
「遺跡には、一か所だけ気になる場所があるの。建物跡の窪みなんだけど、少し掘ったら階段のようなものが出てきたのよ」
ただ、そのときは時間がなくて調査を中断したらしい。
古くから遺跡の調査は行われており、階段はたびたび見つかっていたが、どれも途中で壁にぶつかって終わっていた。地下室に繋がるわけでもなく、何のための階段なのか謎のままだ。
グリムスウィンズの市民は、僅かだが生き残った者もおり、証言によると街が地下に埋まったことは確認されている。ところが、どこを掘っても地下へは行き着かない。調査はやがて予算の都合で打ち切りになっていた。
「でもね、その場所には“調査済み”の印が無かったのよ」
店主は見落としている可能性も十分にあるので、時間があれば調べてみると良いとのことであった。ならば調べてみる価値はある。
話を聞いたモンちゃんは、期待に胸を膨らませ一句。
「いにしえの 遺跡に眠る ミリョク姫」
しかし、渾身の一句を聞かされた現代のミリョクは苦笑しながら肩をすくめる。
「まるで私が眠ってるみたいで、あんまり嬉しくない句だわ」
「……ショベルも買ってくるもん」
ミリョクの反応に、少し複雑な表情を見せたモンちゃんだったが、すぐに機嫌を取り戻した。
遺跡までは徒歩なら丸二日かかる。そこで少し奮発し、ラマを借りることにした。これなら本日中に到着できる。アンブラ側では見られなかったクリスタルを眺めながら、二人は先を急いだ。
マラスは深淵に浮かぶ大地であり、周囲に瞬く星々は、実際には深淵に失われた魂の粒子だとミリョクの祖父から聞いたことがある。死に最も近い大陸。そう聞いた時は「よくもまあこんな土地に住めるな」と呆れたものだ。もっとも、例の屋台連中なら「偉大なる創造主の御心」などと言いそうだが。
そんなことを思い返していると、休憩地点に到着。ラマを休ませるため、正午過ぎに昼食をとる。食べ終えるとモンちゃんは早速、句の題材探しに出かけてしまった。
一時間ほど休んで再び歩みを進めると、途中でクリスタルエレメンタルと遭遇する。だが、その魔物はミリョクを見た瞬間に逃げ出した。誰かと勘違いしたのか、ミリョクは妙な不快感を覚えた。
そして黄昏時。遺跡へ渡るための一本のロープが姿を現す。
かつては陸続きだったらしいが、三百年前に何かの理由で引き裂かれ、以後は一本のロープだけで繋がれ続けているという。しかも、今も少しずつルナ側の陸地と離れつつあり、定期的にロープの張り替えが必要になるそうだ。
ここから落ちれば、眼下に広がる深淵の星の仲間入り。だが戻ってきた者はいないため、その真相は永遠に不明である。幸い、マラスの騎乗生物はこのロープを渡る術を身につけており、落ちる心配はない。
ゆっくりとロープを進む間は、星空を楽しめばいい。マラスにはブリタニアのような日差しはなく、夜の時間帯はほんのりと暗くなる。そのため、今は星が一層輝きを増す時間帯だった。足元には一本のロープ、眼前には薄い切れ端のような陸地と遺跡。それ以外は全て星の海。なんともロマンチックな光景である。
相棒の乗りラマが器用に渡り切ったところで、モンちゃんが一句。
「ラマちゃん よく頑張ったね 到着だもん」
自慢げに顔を上げるモンちゃんに、涼やかな風が吹き抜ける。ミリョクはちらりと視線をやって、短く言った。
「もう少し進んだら野営しましょう」
句への感想はなかったが、代わりにラマがひと鳴きして応えてくれた。遺跡側に無事たどり着いた二人は、近くまで移動して野営の準備に取りかかる。
翌朝。目を覚ますと辺りは淡く明るくなり、星の輝きは静かに鎮まっていた。
モンちゃん達はバックパックからシャベルを取り出し、雑貨屋の店主が言っていた辺りを掘ってみることにした。
ザクザクと掘り進めると、すぐに石材らしき階段のパーツが現れた。意外にも土は柔らかく、あっという間に数段分の階段が露出する。
入口を注意深く調べたミリョクが、久しぶりに口を開いた。
「調査済みの印は……、無いわね」
「確かに無いもん」
「店主さんの言っていた通りだわ。何か発見できればいいのだけれど」
何故か微笑なミリョクをみて、モンちゃんは一句読もうと口を開きかけたが、思いとどまった。
(ミリョクさん 素敵な笑みだよ 久しぶりに)
心の中でそう詠むにとどめた。どうも、川柳を声に出すたびに涼しい風が吹くのがトラウマになりつつある。その後も二時間ほど掘り進めると、やがて朽ちかけの木の板が姿を現した。
ミリョクが足で軽く蹴ると、簡単に崩れ落ち、その奥からは真っ暗な空間が覗いた。湿ったカビ臭い風が、ぞわりと吹きつける。
「風が通ってるってことは、この先どこかに繋がっているわけね……。でも、この匂いは?」
「これはアンデッドの多いダンジョンの匂いに似ているもん」
「あぁ……、確かに。Doomでも似たような区画があったわ」
Doomでこの匂いが漂っていた場所といえば、アンデッドが闊歩するエリアだ。ミリョクは懐かしさを覚えながら、明かりの魔法を唱えて闇を照らした。光に浮かび上がったのは、うごめく屍の群れ。その中心には、バシネットを被った人物がいた。おそらく件のお姫様だろう。
ミリョクは即座に剣を抜き斬りかかったが、体が思うように動かず刃は空を切った。お姫様の能力が原因と判断したミリョクは、振り返りざまに叫ぶ。
「モンちゃん、逃げて! あれは屍のバシネット姫! 見てはダメ!!」
お姫様の姿に見とれていたモンちゃんは、はっと我に返る。
「わかったもん! ミリョクさんも早く!」
「私はもう手遅れかもしれない。高揚感と一緒に姫の意識が流れ込んできてる……。どうやら、助けを求めているみたいだけど」
その時、お姫様は唐突にバシネットを外した。
「え?わたし?」
「ミリョクさんだもん!」
二人は驚愕で固まった。
現れた顔は痩せ細っていたが、どう見てもミリョク本人。お姫様自身も驚いた様子だった。
「あなたは、わたくし?でも構いません。お願いがあります。どうか、素敵な句をもう一度、聞かせていただきたいのです。わたくしにはもう時間がないのです」
「仰せのままに、お姫様……」
勝手に動く口に戸惑うミリョク。どうやら瞳を見てしまい、魅了され始めているらしい。今にも天にも昇るような感覚を抑えながら、モンちゃんへ視線を投げた。
「モンちゃん急いでここを出て!そして川柳よ!お姫様のために、川柳を詠める人たちを大勢連れてきて!私はお姫様の力が暴走しないように抑えてみる。本に書かれている通りなら、マラスが危ないもの」
「……わかったもん!」
お姫様の瞳を見たい衝動を必死で押さえ込みながら、モンちゃんは駆け出した。だが、胸の奥に小さな棘が刺さっていた。
肝心の川柳の出番なのに、頼ってもらえなかった。
モンちゃんはほんの少しだけ、しょんぼりしたのだった。
※終了後、イベント当日のセリフを掲載しますので、全体のストーリーをお楽しみいただけます。
この記事は、イベントを企画している「イベントモデレーター」のブログのページを引用しています。
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