王立広報室・広報官のリシオです。
今回は、ナーマちゃんからの依頼です。
以前、ベソス公爵家の騒動で捕らえた悪魔の件ですが……リック様が非を認め、謝罪したことで事態は無事に収拾いたしました。

それに伴い、証拠として石のポストに封印していた悪魔が『不要』となったのです。
そこで急遽提案されたのが、この悪魔を、占い師ハテナさんがいた『別の世界』へと送り出そうというプランです。
しかし、悪魔を安全に転送するためには『クリスタルアーク』と呼ばれる特別な入れ物が必要になります。
そのアークの在り処は魔女グリゼルダが知っているのですが、彼女の出す依頼(条件)を完了しなければ情報を教えてもらえない状況です。
というわけで、冒険者の皆様。まずは魔女グリゼルダの依頼をこなし、クリスタルアークの情報を引き出すためのお手伝いをお願いします。
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◆開催日時:6月26日(金)22:00~
◆集合場所:Britain広場
※集合場所付近はリコールできないようになりますのでご注意ください。
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注意事項:
◆ 予期せぬ出来事が発生するかも知れません!貴重品はなるべく持ち込まないよう、お願いします。
◆ 以下に該当の場合、あるいはEMが問題ありと判断した場合はコールのうえ、イベント中止の措置を取らせていただく場合があります。
- イベント進行の妨害、かく乱行為。
- EM、あるいはほかのプレーヤーに対する侮辱的発言、またはそれに準ずる行為。
◆ 皆さんのイベントです。マナーを守って楽しく参加しましょう!
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プロローグ
王立広報官室
ここは、人ならざる者から貴族、神属まで、個性的かつ珍しい者たちが依頼に訪れる、ある意味で曰く付きの部署。
「室長。先日のサマンサ様とサリシア様の件ですが、リック様が非を認め、謝罪したことで無事に解決したそうです」
「悪魔はどうなったにゃ?」
「Lithic Jailに封印され、ナーマちゃんが保管しているようですね」
「それなら、一件落着にゃ」
のんびりとあくびをしながら答えた室長のネコ・マタコは、喫茶シャンピニョンで仕入れた初夏の茶葉をカップに入れ、ぬるめの湯を注いだ。
周囲に、若葉の爽快な香りが上品に漂う。
「う~ん、いい香りにゃ~」
「確かに爽快ですね。……それと、室長。この前から気になっているのですが、外の茂みに隠れている奴がいますよね」
「確かにいるにゃ」
広報室の窓から見える外の茂み。
その正体は、タウンクライヤーの記者である。
「今日も隠れていますよ」
「放っておくといいにゃ~」
「外に隠れ始めたのって、サマンサ様がここを訪れてからですよね」
「たぶんそうにゃ。あれはタウンクライヤーの記者、サラにゃ」
「タウンクライヤーの記者が、どうしてうちに?」
ことの発端は、サマンサがこの広報室を訪れたことにある。
彼女は貴族の不祥事や事件を密かに調査して解決する「裏の顔」を持つ伯爵家のご令嬢であり、裏社会では『王の番犬』とも囁かれている。
彼女の行動を追えば、ネタにありつけるのは業界でも常識になっている。
そんなサマンサの動きをずっと見張っていたサラが、次に目を付けたのがこの広報室だった。
ここには人ならざる者が一定数出入りしており、時には明らかに上位の存在と思われる者まで現れる。
さらに広報室に所属しているマーキュ・リにいたっては、クリドラを求めて他の並行世界に移動している——という、とんでもない噂まである。
ここはサマンサ以上に、特大ネタの宝庫ではないかと記者は踏んだのだ。
そのような都市伝説級の話が日常茶飯事で飛び交うのも、王立広報室の特徴であった。
「でも、放置しておくと依頼に来る方の迷惑になりませんか? 室長。しかもあの記者、隠れ方が絶望的に下手なんですよ」
記者本人は、トラをモチーフとした衣装で茂みに潜み、万が一見つかっても「ガオー!」と叫べばトラと思われると本気で信じているらしい、ちょっぴり残念な思考の持ち主であった。
そのため、茂みからは不自然なトラの耳やしっぽが丸見えになっており、怪しさ満点であった。
「大丈夫にゃ。いざとなったら、タウンクライヤー協会に直接圧力をかければ一発で解決にゃ」
「室長って、本当に何者なんですか……」
恐ろしいことをサラッと言う室長が、涼しい顔でカップに口をつけようとした瞬間、広報室の入口が勢いよくバァンと開かれた。
「依頼があるなま~!」

「おや、ナーマちゃん。広報室へようこそのにゃ。詳しい内容を聞くから、二階の応接ブースへどうぞにゃ」
「なま~!」
◇◇◇
ここは、森の賢者亭。
多種多様な者たちが集う屋台である。
「コホン。皆様、お集まりくださりありがとうございます。本日はハテナ様を刺客からいかに護り、我々の世界の均衡を保つかについて議論するとともに、親交を深めたいと思います。そこで本日は、その『刺客』の方に直接来ていただきました。グリモン殿、どうぞ」
本日の催しを企画した行商人のエックスが紹介すると、部屋の隅っこに座っていた男は、手元のグリモア(魔導書)をパタンと閉じ、おもむろに立ち上がった。
「もう顔見知りかとは思うが、改めて挨拶しておこう。グリモンである。忌まわしき枢機卿が送りこんだ刺客だ」
グリモンはハテナを害するため送り込まれたはずなのだが、何故か本来の仕事を完全に放棄し、各地のアンクを巡って「お悩み相談会」を催している男だ。
今では、彼の相談会のお陰で救われた者たちから、すっかり『神』扱いされているという変わり種である。
「この世界では『ハテナ』と言う名で活動されているのですね。邪と闇の神様」
言って、グリモンは深く頭を垂れる。
「神様と呼ぶのはやめてくれぬかな?」
「御意。……して、何をお知りになりたいのかな、バランサー殿」
グリモンはエックスに視線を向けた。
行商人エックス。その正体はハテナが君臨した世界で光と闇の均衡を保つバランサーと呼ばれる重要人物である。
「貴殿が刺客の勤めを果たしていない理由と、今のあちらの現状を教えて欲しい」
あちらとは、ハテナやエックス、そしてグリモンらが元々居た異界のことだ。

「ふむ」
グリモンはテーブルの蒸溜酒を一杯口に含むと、途端に饒舌に語りはじめた。
それは元の世界における枢機卿批判に始まり、あちらの世界が抱える問題点の列挙、そしてこちらの世界の素晴らしさについて——たっぷりと一時間近くに及んだ。
熱を帯びた政治家の演説のようなその長話に、ハテナやレミエルは早々に飽き、完全に船を漕ぐ始末だった。
唯一、真剣に相槌を打ちながら聞いていたのは、エックスだけであった。
「というわけで、この世界は文明レベルでこそ劣るが、人々の心情において、その自由度の高さは目を見張るものがある! 故に私はこの世界を愛し、悩みを抱える者たちの苦悩を取り除き、より自由に生きるための手助けをしていく所存です!」
熱弁が締めくくられると、エックスは感動したように、ひときわ大きな拍手をグリモンに送った。
「素晴らしい! バランサーの視点から見ても、全くもってその通りだと思います。ハテナ様、新しくこの世界にやってきて鳴りを潜めている刺客のセドラですが、その者もグリモン殿のように改心する可能性は十分に考えられます!」
そしてここからは、エックスが『バランサーの視点』として、グリモンに次ぐ長さの演説をはじめた。その長さは、きっちり三十分に及んだ。
「その通りなのだよ、バランサー殿!」
すっかり意気投合したグリモンとエックスは、熱い涙を浮かべんばかりの固い握手を交わした。
その暑苦しい演説が終わった絶好のタイミングで目覚めたハテナが、ふぁあ、と気の抜けたあくびをし終えてから口を開く。
「……やっと終わったのかしら。推測ばかりしていても仕方ないし、とりあえず、そのセドラ本人をここに召喚して直接聞いたらどうかしらね。レミエルはどう思う?」
「それが一番手っ取り早くて良いと思うね、邪神ちゃん」

「その呼び方はやめろと言ったよね。呪うぞ」
「じょ、冗談よ」
ジロリと底冷えする視線で睨みつけるハテナに、レミエルは引きつった笑いを浮かべながら両手で降参のポーズをとった。
「師匠。私が居るのは場違いでは……?」
異界の住人や上位種ばかりが集うカオスな空間に、ナーマが居心地悪そうに困惑の表情を浮かべると、ハテナが優しく彼女の肩に手を乗せた。
「大丈夫。これも勉強の一環よ。彼らの考え方をよく観察するといいわ」
「なま~」
師匠の言葉に、ナーマはほっと安堵の息をつく。
「ハテナ様。それで、この場に奴をどうやって呼ぶおつもりで?」
「簡単よ」
エックスの問いに短く答えたハテナは、指を高く掲げ、パチンと軽快な音を鳴らした。
すると空間が唐突に歪み、見知らぬ下着姿のエルフがポツンと部屋の中央に現れた。
「え?」
「あ、すまない。着替え中だったか」
完全に無防備な姿の刺客に対し、ハテナは思わず真顔で謝罪した。堅物のエックスとグリモンは「むっ」と唸り、慌てて紳士的に視線を逸らす。
「邪と闇の神……さま!?」
数秒遅れて状況を理解し、我に返ったセドラが、短い詠唱とともに咄嗟にファイヤーボールを放った。
至近距離から放たれた炎の球は、回避する暇もなくハテナの額にクリーンヒットし、彼女は糸が切れたようにバタリと後ろへ倒れ込んだ。
「師匠ぉぉっ!?」
ナーマが半泣きになりながら、慌ててハテナに治癒魔法を施す。
あまりの唐突な凶行に、他の面々も一様に驚愕の表情を倒れたハテナへと向けた。ただ一人、レミエルを除いて。
「……私は、神を屠ったのか?」
セドラが自らの両手を見つめ、信じられないというような真剣な眼差しをハテナに向ける。いとも簡単に魔法が命中してしまったため、放った彼女自身が一番驚いているようであった。
「ハテナちゃん、お芝居が上手ね。まぁ、一回本当に死んだみたいだけど」
「……残念。レミエルは騙せないか」
不満げな声の主は、額を撃ち抜かれて地面に倒れているはずのハテナであった。彼女は何事もなかったかのようにパッチリと目を開ける。
「師匠! 心臓に悪い冗談はやめて欲しいなま……!」
「悪かったわね」
涙目のナーマに軽く謝りながら、ハテナはゆっくりと身を起こした。
ハテナはゆっくりと起き上がると、涙目のナーマの頭を優しく撫でて謝罪した。
そしてそのまま、未だ下着姿で呆然としているセドラへと視線を向けて話しかけた。
「レミエルの言った通りよ。あなたの一撃で、私の肉体は確かに一度死んだわ。だから、あなたの『神を屠る』という目的はこれで達成よ」
「いや、しかし……現にこうしてピンピン生きているではないか、邪の神さま!」
「この世界には『徳』というシステムがあってね、条件を満たせば自己蘇生できるの。便利よね」
「そ、それは知識としては知っているが……まだ深く理解できていない」
「そうね。とりあえず『献身の徳』を得ておくといいわ。他にも『再起の杖』と呼ばれる便利なアイテムもあるのよ。怪しげな闇の商店なんかで入手できるわ」
「悔しいが、その通りだ。私はまだ、この世界のルールをすべて把握できていない。それに闇の商店まで存在しているとは……」
すっかり調子を狂わされ、ブツブツと呟くセドラに対し、ハテナはにっこりと微笑みかけた。
「そういうわけだから。あなたは私を一度倒した。それで解決、ということで良いと思うのだけど?」
「いや、それは……」
セドラは明らかに困惑していた。
確かに、使徒としての役割は一度果たした……と言えなくもない? しかし、標的であるハテナは目の前で堂々と蘇っている。
このまま元の世界に「倒しました」と報告しても、あちらの状況に変化が見られなければ、結局は虚偽の報告をした反逆者扱いになってしまうだろう。
だがその一方で、あちらの世界でふんぞり返っている『いけすかない枢機卿ども』に、一泡吹かせてやりたいという密かな反骨心があるのも事実だった。
(私は、どうするべきだ……?)
セドラが深刻な顔で葛藤の海に沈みかけた、その時。
「ねえねえ! それなら僕にいい考えがあるよ!」
重い沈黙を無邪気に打ち破ったのは、どこからともなくふわりと現れた『リワードの妖精』であった。
「それだよ」
妖精が小さな指を向けた先。そこには、つい先日サリシアが悪魔を封じ込めた『石のポスト』がぽつんと置かれていた。
元々はリックが悪魔にたぶらかされていた証拠として使う予定だったが、彼があっさりと改心してしまったため不要になり、今後の処理に困ったナーマがハテナへ相談するために持ち込んでいたのだ。
それを見たハテナは、何かを閃いたようにポンと手を打つ。
「なるほどね。このポストの中の悪魔に、私の力の一部を付与して『私の分身(ダミー)』に仕立て上げる。そして、それを刺客であるセドラに持ち帰らせれば、あちらの世界も騙せて万事解決というわけね」
「大正解! 流石ハテナだね。ただ一つ問題があって、それを移送するには石のポストじゃ耐えられない。もっと強固な入れ物が必要なんだ。『アーク』っていう特別な器なんだけど……」
妖精曰く、そのアークとやらは魔女グリゼルダが所在を知っているそうだ。
「グリゼルダか……。彼女とは今ちょっと揉めてて気まずいのよね。というわけでナーマ、あなたがセドラと一緒に行ってアークを入手してきてちょうだい」
「なま!?」
「は?」
突然の無茶振りに、ナーマとセドラの素っ頓狂な声が見事にハモった。
ナーマは瞬時に顔を引きつらせ、師匠に向けて「お願いだからそれだけは勘弁して」と全身で悲痛な懇願のオーラを放つ。
「これも立派な勉強よ、ナーマ」
しかし、ハテナは有無を言わさぬ笑顔で、愛弟子の肩にガシッと重い手を乗せた。逃げ場はどこにもない。
「ちょっと待ってくれ! 私は邪と闇の神さまを討ちに来た恐ろしい刺客だぞ!? そんな危険人物を、こんな下っ端……いや、お前の弟子と二人きりで野放しにしていいのか!?」
セドラが至極真っ当なツッコミを入れる。
「ええ。だからこそ、弟子のナーマと一緒に行ってもらうのよ」
ハテナは涼しい顔で、まったく答えになっていない持論を堂々と展開した。
◇◇◇
翌日。
グリゼルダの家の前に、ナーマとセドラの姿があった。
「こんにちはー! グリゼルダ様、ナーマです!」

ややあって、廃屋の中から現れたのはグリゼルダであった。
「ナーマちゃんか。あのハテナから、例のものを預かってきたのかい?」
「い、いえ……。それはもう少し時間がかかるそうなま~」
ナーマが冷や汗を流しながら答えると、グリゼルダはピクリと不機嫌そうに眉をひそめた。
「あのインチキ占い師……舐めた真似をしてくれるじゃないか。で、手ぶらで何の用で来たんだい? そっちの隣に突っ立ってる見慣れないのは誰だい?」
鋭い視線を向けられ、ナーマは慌てて事情を説明し始めた。
途中でセドラが生真面目な挨拶を挟みつつ、かくかくしかじかと『アーク』が必要な理由を語る。
やがて、全てを聞き終えたグリゼルダは腕を組んで考え込んだ。
「なるほど。アークが必要なんだね」
「そうなま!」
すんなりと渡してくれそうな気配はない。どうやら何か交換条件を考えているようだ。
「そうだねぇ。ハテナの代わりにお前さんたちに『代用品』を用意してもらおうかね」
「代用品? それは一体なんだろうか」
セドラが怪訝そうな顔で尋ねると、グリゼルダは「あんたには説明が必要だね」とため息をつき、自身の事情について語り始めた。
彼女は表向き、『行方不明になった弟子を探している』という名目で、家を訪れた冒険者たちに捜索依頼を出している。
だが、その本性は自身の顔に刻まれる皺の一本たりとも許すことができない、執念の『美肌研究家』であった。
実はハテナとは、その美肌の研究に必要なレア素材を提供する契約を結んでいたのだ。
しかし、年々エスカレートするグリゼルダの無茶な要求にハテナが応えきれなくなり、現在絶賛揉め事(バックレ中)に発展しているのである。
「つまり、その美肌のための『スノーパウダー』という素材を入手できれば、我々にアークの情報を与えてくれるのだな?」
「そういうことさ」
「グリゼルダ様、そのパウダーはどこにあるのなま?」
ナーマが身を乗り出して尋ねると、グリゼルダは懐から一つのルーン(転送石)を取り出して手渡した。
「このルーンの転送先で、『スノーツリー』と呼ばれる大木を探すんだ。周囲の景色に関わらず、その木だけが真っ白な雪に覆われているから、見ればすぐに分かるさ」
「分かりましたなま~!」
「分かった。任せておいてくれ」
「行く前に、いくつか注意点を伝えておくよ」
グリゼルダは二人の顔を交互に見据え、真剣なトーンで告げた。
「木を探す時は、ルーンの到着ポイントを中心にして探すこと。それと、あの木は『夜になると移動する』厄介な性質がある。もし日が出ている間に見つけられなかった場合は、深追いせずに諦めて、翌日また仕切り直すんだよ」
しっかりと頷く二人に、グリゼルダはふんと鼻を鳴らす。
「まったく。お前さんの師匠がさっさと契約を履行してくれれば、すぐに教えてやらんこともないんだがね。恨むなら、あのインチキ占い師を恨んでおくれ」
◇◇◇
ナーマとセドラは、リコール魔法を使いルーンに記された場所へと降り立った。
視界いっぱいに広がっていたのは、どこまでも続く鬱蒼とした深い森だった。
「ナーマ。効率を考えるなら、二手に分かれて探すか?」
「わかったなま。それじゃあ、三時間後にまたこの場所に集合なま~」
「了解した」
二人は到着地点を中心にして、それぞれ左右に分かれて森の捜索を開始した。
周囲の景色に関わらず、その木だけが真っ白な雪に覆われているというのだ。いくら森が広いとはいえ、すぐに見つかるだろう——そう高を括っていた。
そして、三時間後。
「みつからないなま~」
「こちらも空振りだ。雪に覆われた大木など、遠くからでもすぐに目につくはずなのだが……」
木が移動を始める「夜」が近づき、初日の探索はタイムアップとなった。
翌日。
「今日もみつからないなま~」

「ああ、こちらも同じくだ」
さらに翌日。
「だめなま~。占ったけど役にたたないなま~」
「予想以上に厳しいな。まさかこれほど手こずるとは……」
結局。
毎日夕暮れまで森の中を歩き回り、来る日も来る日も一週間通い詰めたが、目的の『スノーツリー』は影も形も見当たらなかった。
「もう限界なま~。足が棒なま~」
ついに地面にへたり込んだナーマは、ブラッドワームの姿に戻ってしまった。完全に白旗モードである。
「自力で見つけるのは諦めて、広報室に行ってプロの冒険者に助けを求めるなま~」
「それが賢明な判断だな。……すまないが、私は日が暮れるまでもう少しだけこの辺りを探してみる。君は先に戻って、その手配を頼む」
生真面目なセドラは諦めきれないのか、疲れを見せつつも再び森の奥へと視線を向けた。
◇◇◇
ナーマが広報室を訪れたころ。
外の茂みの中では、藪蚊と死闘を繰り広げていたタウンクライヤーの記者・サラが、新たな来訪者の存在に気づいていた。
「あれは確か……」
サラはトラはメモ帳を取り出し、パラパラとページを捲る。
「あった。謎の占い師ハテナの弟子だぎゃ。あの子の正体はブラッドワームなんだわ。……ガオ〜ッ! って、蚊にやられて痒いだがや!」
ボリボリと身体を掻きむしりながらも、記者の勘が「特大のネタ」の匂いを嗅ぎ取った。サラは痒みを我慢して茂み横の木へスルスルと登り、窓越しに広報室内のナーマの会話をメモし始める。
窓越しで声は聞こえないが、問題はなかった。彼女は唇の動きから言葉を正確に読み解く、いわゆる『読唇術』のプロフェッショナルでもあったのだ。
「おお! これは読み通り、裏でサマンサも絡んでるだぎゃ。どえりゃあ良い記事が書けそうだで……おや?」
ペンの走りが佳境に入ったその時、木の上にいるサラの周囲に、突如としてモクモクと白い煙が立ち込めた。
「最近は外に『デカい蚊』が多くて困るにゃ〜。広報室特製・麻痺系の強力除虫剤を焚いてみるにゃん」
下を見下ろすと、室長のネコ・マタコが窓を開け、デカデカと『除虫剤』と印字された箱から勢いよく煙を噴き出させていた。
明らかに上を狙って焚かれた煙は、盗聴中のサラをピンポイントで包み込む。
「ゴホッ、ゴホゴホッ! こ、この煙はなんだぎゃ!?」
やがて吸い込んだ煙の効果で身体が軽く痺れ始め、サラは木の上で体勢を維持できなくなった。そのままバランスを崩し——ドサッ!
「痛たたたッ! ゴホゴホッ!」
運良く下は茂みだったためダメージは軽微で済んだが、痛いものは痛い。サラは痺れる身体でのたうち回りながら、ひどく咳き込みつつ室長を睨み付けた。
「お、お前は……ネコ・マタコ!」
「おや? 木の上から随分と大きな蚊が落ちてきたにゃ!」
「誰が蚊だぎゃ! ゴホゴホッ。うちは立派な人間じゃい!」
「盗み聞きはよくないにゃ、タウンクライヤーのサラっち」

「人違いだぎゃ! ゴホゴホッ!」
サラは完全にバレていることを必死で誤魔化すと、ふらつく足取りで急ぎその場から逃走した。
「ネコ・マタコめ……! いつかあいつの正体も暴いてやるがや! ゴホゴホッ!」
捨て台詞と咳き込む声を残し、トラの着ぐるみは無様な後ろ姿で王都の路地へと消えていった。
※終了後、イベント当日のセリフを掲載しますので、全体のストーリーをお楽しみいただけます。
この記事は、イベントを企画している「イベントモデレーター」のブログのページを引用しています。
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