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日本シャード EMブログ更新情報

Yamato

鬼の正体は?(イベント)

引用元:別ウィンドウで開く https://uoemyamato.hatenablog.com/entry/2026/02/22/202444
2026.02.22

王室広報官のリシオです。

今回はゼントのお宿《みやび》の女将、ナナセさんとリクザエモンさんからの依頼となります。

ナナセさんの宿に自称女神の鬼がやってきたそうで

この鬼を元の姿に戻すお手伝いをお願いしたいそうです。


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◆開催日時:2月23日(月)21:30~  
◆集合場所:Britain広場

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注意事項:
◆ 予期せぬ出来事が発生するかも知れません!貴重品はなるべく持ち込まないよう、お願いします。
◆ 以下に該当の場合、あるいはEMが問題ありと判断した場合はコールのうえ、イベント中止の措置を取らせていただく場合があります。
 - イベント進行の妨害、かく乱行為。
 - EM、あるいはほかのプレーヤーに対する侮辱的発言、またはそれに準ずる行為。
◆ 皆さんのイベントです。マナーを守って楽しく参加しましょう!

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プロローグ

 

ここはブリテインにある王立広報室。


王都でも珍しい
『出勤はしているが、仕事はしているか怪しい』ことで有名な部署である。

 

室長のネコマタコとリシオは
先月分の報告書を確認していた。

 

「室長、ビルさんの件ですけど、やはり上層部に報告した方がよくないですか?」


報告書に目を通しているように見えて
実は内側で占いの本を開いていた室長が
ゆっくり顔を上げる。


「そうだにゃ~。でもグリモンは今でも相談会を続けてるって話だし
深刻なことは起きてないかもにゃん」


そう言うと、すぐに視線を本へ戻し


「よし、キタコレ!」


室長の歓喜が室内に響いた。


「室長。語尾、忘れてます。それと報告書に何か?」


恋愛欄が二重丸。
しかも今年上半期最大のチャンスなんて言えない。


「いや、なんでもないにゃ~」


リシオは確信した。


(あれ、絶対違うものを見てるな)


小さくため息をつき
再び報告書へ視線を落とす。


報告にあった使徒セドラについて
その後、目撃情報はない。


他の報告は、ゼントエリアでの鬼の目撃程度。
セドラは、今も身を潜めているようだった。


そういえば、ビルは真実のクリスタル入手後
魔法の理解が飛躍的に向上。


正式に傭兵団の治癒師として採用されたらしい。


最近はミリョクとも話すようになったとか。
先日顔を出したときは、ずいぶん嬉しそうだった。


(青春だね~)リシオが心の中で呟いた、その時。


コンコン。


広報室の扉が開いた。


「ごめんください」


姿を現したのは
ゼントのお宿《みやび》の女将、ナナセだった。


すぐ後ろには、リクザエモンの姿も。


「女将さん、どうされました?おや、リクザエモンさんまで……」


やや困惑した様子のナナセは、静かに口を開く。


「うちに鬼がやってきたのです」


「鬼?」


「はい。……喋る鬼です」


一瞬、変身した冒険者か?
そう思ったが、リシオはすぐに表情を整える。


「詳しくお聞きします。こちらへどうぞ」


応接ブースへ二人を案内するリシオ。


その背後で
室長の耳が、ぴくりと動く。


占いの本をそっと閉じ
喫茶シャンピニョンで仕入れた茶葉入りの缶を見る。


(フフフ。どの茶葉が一番美味しいか試すチャンスにゃ)


不敵な笑みを浮かべつつ
室長の思惑は静かに動き出す。


ただしそれは
事件解決のためではない。


依頼者にこっそり試飲させ
反応を確認するためである。


猫舌の室長が思いついた究極のプランであった。

 

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

ここは生を終えた者たちが集う、あっちの世界。


白い雲が地面代わりに広がるその上を
二柱の女神が並んで歩いていた。


「メネイエル、あんたドジなんだから気を付けなさいよね」


忠告するのは、神友のメヒルである。

 


「わかってる。雲が薄くなっているところがあるから注意でしょ」


メネイエルは感情のない声で淡々と答えた。


「その通り。いくら言っても何かしでかすのがあんたなんだから・・・」

 

メヒルは呆れ顔だ。
ドジなのに、よく神のひと柱になれたものだ。


最近、ところどころ雲が薄くなっている場所がある。


原因は調査中。
雲から落ちれば、そのまま下界へ。


普通なら問題はない。
戻ることもできる。


だが、何らかの理由で御魂が捕らわれたり
縛られたりすれば話は別。


滅多にないがヒトの体に入ってしまうことがる。
この場合、大抵は厄介なことになる。


だからこそ
雲から落ちないに越したことはないのだ。


「それより、お腹すいた。何か食べよう」


メネイエルの腹部から
『ぐう~』 間抜けな音が響いた。


「またなの?そういえば最近、下界から戻ってきた子たちが
新しい食べ物を再現したらしいわよ。行ってみる?」


「うん」


こっちの世界では、みんな御魂
光の玉のようなエネルギー体で存在している。


体はない。
だから本来、食べる必要もない。


ただ、楽しみとして
あえて人の姿をとり『食事』をする者は多い。


二柱の女神も同様であった。


食で最近話題になっているのは
ソーサリアのグッドイーツのスイーツだ。


パン屋なのにスイーツも美味しい人気店。


こっちの世界では製法や味も色合いも
正確にイメージできればそのまま具現化される。


曖昧な想像では
美味しいものは生まれない。


意外とシビアな仕組みなのだ。


ちなみに食べ物以外も
具体的にイメージすれば作れてしまう。


「メネイエル、あのお店ねって、あれ?」


返事がないので
振り向いてみると誰もいない。


嫌な予感がして、足元を見ると
雲が透け下界が見えていた。


「……まさか」


その向こう。
小さな光の点が、落ちていくのが見えた。


メヒルの顔色が変わる。


「メネイエ~ル!!」


最大音量で叫ぶ。
続けて思いのたけを叫ぶ。


「もし帰ってこれない時は、下界をしっかり楽しんできなよ!」


意識的な繋がりがあるので
伝わっているはずだが反応はない。


おそらく、落下中の衝撃で
それどころではないのだろう。


「本当にドジなんだから!」


ひとり呟くメヒル。


あのドジっ子は何かしらトラブルに巻き込まれる。
きっと予期せぬことが起こるに違いない。


メヒルは天を仰ぎ口を開く。


「創造主さま。どうかメネイエルが、たくましく成長して戻りますように」


祈りは、静かに空へ溶けていった。

 

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

お宿《みやび》はゼントでも指折りの人気宿。


一階には居酒屋『さけさか』を併設し
朝から夜まで賑わいを絶やさない。


その女将、ナナセの一日は、店先の清掃から始まる。


「今日は霧が濃いわね。ちょっと不気味だわ」


昨日の快晴が嘘のように
世界は真っ白に包まれていた。


ここゼントは海辺の街。


気象条件次第で濃霧が発生することもあるが
今日の霧は異様だった。


視界はとても悪く
向かいの建物が、かろうじて輪郭を保っている程度。


(……何か出そうだねぇ)


そんな予感が、背筋をぞわりと撫でる。


ふと振り向いた瞬間、ナナセは固まった。


 「え、鬼?」


霧の向こうに立っていたのは、淡い緑色の鬼。
目が合った瞬間、鬼はすっと口を開いた。


「私は慈愛と灯火と忍耐の女神メネイエル」


「鬼がしゃべったわ……」


しかも女神と名乗った。


感情の無い声で話す自称女神に
ナナセの口はぽかんと開いたまま閉じない。


(落ち着けわたし)


深呼吸。


冒険者が変身している可能性だってある。
世の中、もっと変なのは山ほど見てきた。


そんな彼女の心情をよそに自称女神は話を続ける。


「こんな姿になったけど、私は慈愛と灯火と忍耐の女神メネイエル。
けっして、天然でポンコツの食いしん坊女神ではないよ」


神格に関わる重要事項なのだろう。
わざわざ二度、名乗った。
ついでに欠点もさらりと自己申告している。


意味深な自己紹介に
ナナセはふっと肩の力を抜いた。


「えっと。その女神様がなんの用なんだい?」


「元の姿に戻りたいの、何かいい案はない?」


自称女神の問いに疑いの眼差しを向けるナナセ。
本当に神なのか確かめる必要がある。


「あんたが本当に女神っていうなら、何か証拠を見せてちょうだい」


「いいよ」


頷いた瞬間。
メネイエルの頭上に、淡い光輪が浮かび上がった。


天使の輪にそっくりなそれは
ルーン文字に似た紋様が巡り幻想的な緑光を放つ。


見ているだけで、心が落ち着く。
鼻孔をくすぐる香りも、穏やかだ。


ふと手を見るナナセ。


「……あれ?」


腕の古傷が、光とともに消えていく。


数年前。


嵐の時に倒れてきた看板で
腕に深手を負ってしまったのだ。


その跡が、光を放ちながら消えてゆく。


(これは本物かも? でも……)


光輪から視線を少し下げると鬼の顔。
このギャップに思わずナナセは吹き出した。


「何かおかしい?」


無表情のメネイエルが問いかける。


「鬼の頭に輪があるのが滑稽だったのよ」


ナナセは判断する。
神かどうかはさておき、悪い存在ではない。


「輪っかは、神意を発動すると現れるの。
病も心も癒すよ。……ところでお腹減った」


メネイエルの腹部から
『ぐうぅぅ』 情けない音が聞こえる。


「あんたのことを信じるよ。
お礼に何か食べさせてあげるわ。中にお入り」


メネイエルは素直に頷くと店内へ。
来客まで時間はあるが、万一ということもある。


なるべく目立たないよう
屏風で仕切りをしている席に座らせた。


最近ホマレ島やゼント近郊で鬼の目撃情報がある。
目の前にいる鬼と同じ緑色。
メネイエルでほぼ確定である。


「ここなら、他のお客に見られないから」


「ありがとう」


それでも、念には念を。


冒険者が忘れていった装備品をかき集め
メネイエルの隣に置いた。


これなら見られたとしても
冒険者が変身していると思われるだろう。


落ち着いたところで、ナナセは厨房へ。
賄いを持ってきてテーブルに置く。


焼き魚を中心としたシンプルな定食だ。
ホマレ産の米に、自慢の合わせ味噌の汁。
これで立派な朝定食の出来上がりだ。


問題は箸が使えるかどうか。


「あなた、お箸は使えるのかしら?」


「うん。大丈夫。人だったころ使ったことある」


「そりゃよかったよ」


「いただきます」


メネイエルは箸を持つと
ナナセも驚く速さで定食を平らげる。


「ごはんおかわり。味噌汁も」


「はいはい。あんた凄い食欲だね」


さらにもう一度おかわり。
鬼のお腹は良い感じに膨らんでいた。


ナナセはふと疑問に思ったことを口にする。


「あなた、神様なのに食に執着があるのかい?」


メネイエルは静かに息を整えると
自身の過去生について語り始めた。

 




「少し長くなるよ」

 


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彼女は神だけあって、多くの人生を経験してきた。


多くの人が憧れるお姫さま。
科学文明の世界では学者やアイドル。
救国の女王に神秘の森の精霊さま。


しかし。


最も深く、最も鮮明に残っているのは
メネイエルという名の人生。


本来、神に名は無い。


精神はすべて繋がっている。
語らずとも、互いを理解できる。


それでも。


人間臭さを愛する者たちは、
もっとも印象に残った人生の名を使う。


メネイエルも。
神友のメヒルも。


「それで、その名を使っているのね」


「うん」


ナナセが静かに問う。


「どんな人生だったんだい?」


僅かな沈黙。


「波乱万丈。空腹との戦い」


その一言に、すべてが滲んでいた。


メネイエルが人として生きた世界は
争いが絶えなかった。


領土や資源の奪い合い
時にはメンツのために争う。


よくある話である。


生活基盤が破壊され、国は衰退。
そこに、気候変動が重なり大地が干からびる。


当然収穫は絶たれる。


そんな、争いと飢餓と貧困が
あたり前の世界でメネイエルは生まれた。


かつては古の帝国内の一領地。


帝国が内紛で崩壊した後に独立。
だが権力闘争の末に分裂してしまう。


首都の中央を流れる大河を互いの国境と定め
以後も争いは続いた。


それでも。


彼女が幼いころは休戦協定が機能し
まだ平穏な時代だったと言える。


だが、彼女が十歳の年。情勢が変わる。
休戦協定が破棄され、少ない資源を巡る争いが勃発。


その戦禍でメネイエルは両親を失った。
残されたのは六歳の弟と三歳の妹である。


「大変だったね」


ナナセの目が潤む。


「それで、どうしたの?」


メネイエルに続きを話すように促した。


不幸話が好きなのではなく
彼女の人となりを知りたいと思ったから。


メネイエルは、静かに答える。


「私が親代わりになった」


長女の使命なのか、悩むことなく決断をした。


代母メネイエルの最初の仕事は食料の入手だ。
だが、街は焼かれ干ばつで供給網も崩壊されている。


それでも、商人たちはどこからか食料を仕入れ
小規模だが市場を形成していた。


金さえあれば、なんとかなるわけだ。


メネイエルは手元にある僅かなお金で
各店を周り、最低限の食料を確保した。


生きてゆくために、職探しは必須だが
発育の悪い彼女に肉体労働は厳しい。


だが、幸いなことに魔法が使えた。
得意なのは治癒魔法。


レベルは初級だが、魔法使いに違いはない。
母がその血筋であったため、受け継いだのだろう。


有難い話だ。


この世界で、魔法使いは貴重な存在。
登録すれば国が彼女の生活を保障してくれる。


ただし、家族は対象外……。
国庫が破綻状態なので余裕がないのだ。


代母として、弟妹を養うためメネイエルは
無登録で治癒師を始める決断をした。


闇治癒師。


それは罪となるため大々的な宣伝はできない。


だが、口コミでは収入は増えず
手に入る食料も少ないままだ。


育ち盛りの弟妹に優先して食べさせた。
結果、メネイエルは痩せ細り栄養失調になる。


餓死寸前といっても過言ではなかった。


このままでは共倒れである。


そんな時、近くに治療院が開設された。
対岸から逃れてきた医者が開業したのだ。


彼の名はカイル。
魔法使いではない、普通の医師である。


安定した職を探していたメネイエルは
カイルに治癒魔法が使えることを伝えると
雇ってもらえることになった。


無登録であることも承知の上だ。


ここが転機となる。
メネイエルのジリ貧人生は、わずかに好転し始める。


だが問題も。


彼女は年齢の割りに小柄で、マナも少なく
治癒できる人数にも限りがあった。


原因は長年の飢餓による成長阻害。


そこで彼女はカイルに医学の基礎を学ぶ。


患部を特定することにより、マナを節約し
効率的に治癒できるよう特訓する。


二年後。
十二歳の年。


特訓の甲斐もあり
魔法の能力が飛躍的向上していた。


比例してマナの量も増えた。


彼女の魔法はとても精密で効率的
且つ、僅かなマナで治癒ができるほどに成長していた。


それは、一般的な治癒師よりも格段に能力が高かった。


「凄いじゃない」


「二年も頑張ったから当然」


少し誇らしげなメネイエル。


「それからどうなったんだい?」


メネイエルは言う。


「カイルが…、正体を明かした。諜報員だと」


「は?」


カイルは北岸の諜報員であった。
避難民を装い、南岸の内情を探っていたのだ。


なぜ明かしたのか?


それは、メネイエルの類まれなる魔法の能力にあった。


当初、このような予定は無かったのだが
彼女の将来性に希望を見出したのだ。


「君の力で、この愚かな争いを終わらせてほしい」


その言葉はメネイエルに深く刺さった。


弟妹も連れていくことを条件に話はまとまり
北岸へ渡る決断をしたのだ。


「北岸の国に行ってからはどうなったんだい?」


「カイルが紹介してくれた魔法使いに指導してもらって、争いを終結させた」


「あんたが?」


「うん」


一年後。
十三歳の年。


メネイエルは上級の治癒師になっていた。


干ばつが酷く、国境の川が干上がりかけたとき
両岸の国は存亡をかけ激しくぶつかった。


長年研究してきた兵器をすべて投入した総力戦。


既に荒廃していた街は完全な瓦礫と化し
このままでは双方とも全滅しかねない状況に。


混乱の中、メネイエルは最前戦で
治癒師として立っていた。


そして、最後の戦闘が行われる寸前。


長年の戦いに嫌気がさしていたメネイエルは
天を仰ぎ「くそったれな世界に癒しを」と強く祈り魔法を放った。


治癒でも回復でもない
この世界に存在しない祈りの魔法。


彼女自身も無意味なことをしたと思った瞬間
マナが大量に吸い取られる感覚に陥った。


同時に天空が淡い緑色に変わり
幻想的な光が降り注ぎ始める。


その光は人々の心を癒してゆく。


落ち着いた兵士たちは動きを止め
負傷した者たちの傷が癒えて消える。


やがて天空の異変に
気付いた人たちは祈り始める。


その様子を視認したメネイエルは
自信の役割を深く認識し、カイルの言葉を思い出す。


「君の力で、この愚かな争いを終わらせてほしい」


これは最後のチャンスだ。
メネイエルは力を振り絞り、魔法を放ち続けた。


「慈愛をもって、他者をいつくしみ」


「灯火の光をもって、正しき道を示し」


「忍耐をもって苦難を乗り越え共に進む」


頭に浮かんだ言葉を次々と口にする。


「世界の人たちよ、互いを許し、他者に寛容であれ」


すると、不思議なことに
人々の想いがメネイエルの頭に入ってきた。


後日判明したことだが、他の人たちも
同様だったそうだ。


それはまるで、全ての人たちが
繋がったような不思議な感覚。


メネイエルが口にした言葉も
多くの人たちにも伝わっていた。


ややあって、大陸全体から天空の緑光が
確認できるようになった頃、メネイエルは倒れた。


生命力を使い切ったのだ。


同時に天空はいつもの青さを取り戻す。


「メネイエル!」


近くにいたカイルが彼女の元へと駆け寄る。


「よくやった。しっかりしろ!意識を保て」


既に虫の息。


顔は青白く、瞳孔も開きかけている。
メネイエルは餓死しかけたときを思い出す。


カイルが呼びかける中、僅かに彼女の口をひらいた。


「お腹減った……」


彼女の腹部から
『ぐうぅぅ』 情けない音が聞こえる。


メネイエル、最後の言葉であった。


彼女の死から数時間後、停戦が成立。


後日、分裂していた国は一つになり
王政は廃止され、共和制に移行となった。


「あんた、やりきったんだね!」


ナナセはメネイエルの肩をポンポンと叩き喜んだ。


「その後、世界はどうなったんだい?」

 

 

「落ち着いた。そして私の像があちこちできた。とても恥ずかしい」


メネイエルの祈りの魔法は、人々の心を繋げ
想いを共有することができた。


その結果、大陸内の争いは終結したのだ。


小さい争いは今でもあるが
概ね平和な状態が続いているらしい。


不思議なことに
枯れた大地も蘇りつつあるそうだ。


世界で初めて祈りの魔法を発動さえたメネイエル。


命と引き換えに争いを終わらせた功績を称えられ
メネイエルは聖女と認定された。


大陸の各地に聖女メネイエルの像ができているらしい。


一連のできごとは「メネイエルの奇跡」として
彼女の死から100年が経過した今でも語り継がれている。


「最後の言葉があんたらしいね」


「すごくお腹が減ってた。あの時」


「今夜はうちに泊まっていきな。
晩ご飯を食べた後は風呂にゆっくり入るといい」


「ありがとう」


「明日はリクザエモン爺さんに解決方法を聞きに行こう」


「わかった」

 

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 

「久しぶりのお風呂は格別」


湯気の向こうで、小さく呟く。


ここは《お宿みやび》の湯殿。
湯に身を沈め、メネイエルは静かに目を閉じた。


あっちの世界にも風呂はある。


重みのある身体。
水の温もり。
皮膚を撫でる感触。


それらすべてが
下界の方が遥かに心地よい。


湯面に映る夜空をぼんやりと眺めながら
神友のメヒルを想う。


そして。


ここ数日の出来事を、ひとつずつ辿った。


(落ちてきた時は本当に焦った)


久しぶりの下界。


しかしここは、
働かざる者は生きられない厳しい世界だった。


人として生きた過去
飢えに苦しみ餓死しかけた記憶が胸をよぎる。


今の彼女にとって
ここは決して安らぎの地ではない。


どうすべきか思案していたその時
ふわりと甘く優しい香りが漂ってきた。


匂いに導かれるように歩みを進めると
そこにはお地蔵さまと供え物があった。


メネイエルの翡翠の双眸が輝きを帯びる。


「これはとても美味しそう。いただきます」


空腹には勝てず
罰当たりだと思いつつも手を伸ばしてしまう。


口に入れた瞬間、思わず息を呑んだ。


甘さ、香り、食感
すべてがあっちの世界よりも鮮烈であった。


そこでメネイエルは気づく。


「あれ、体がある。なんで?」


頬をつねってみると「痛い」


神族は下界に降りた際、肉体を持つか選択できる。
その記憶が蘇る。


メネイエルは無意識に身体を選んでいたらしい。


「久しぶりに、ちゃんと食べれる」


そう思った瞬間、喜びが胸に広がった。
しかしすぐに現実が追いつく。
生きるためには働かなければならない。


気持ちは一転して沈む。
相場の乱高下のような変動である。


(おうちに帰ろう。働くよりましだ)


そう決めて戻ろうとするが、何も起こらない。
その時、脳裏にメヒルの言葉が蘇る。


「もし帰ってこれない時は、下界をしっかり楽しんできなよ!」


これは何かしらアクシデントに
巻き込まれたのではないだろうか。


そう考えたメネイエルは、生きるために
食料と仕事が必要だと理解する。


そしてその時、こちらへ向かってくる人影に気づいた。


男は近づくなり突然叫んだ。


「お、鬼だ!!!」


鬼とは危険な魔物のはずだ。

 


「え!? 鬼!? どこ!?」


メネイエルが思わず叫び返す。


「鬼がしゃべった!ひぇえええええー!喰われる」


男はそのまま気絶して倒れ込んだ。


メネイエルは鬼を警戒しながら男を木陰へ運び
冷えないように大きな葉を掛ける。


その時、何気なく自分の腕を見て驚いた。


人の腕ではない。
太く、獣のようで、緑色に変わっている。
水たまりを覗くと、そこには鬼の姿が映っていた。


「鬼になってる!」


思わず声を上げた直後
どこからか小さな声が聞こえた。


「すぐ戻るじゃろう」振り向いても誰もいない。
お地蔵さまだけが静かに立っている。


目覚めた男に見られるのを避けるため
メネイエルは茂みに隠れて元の姿に戻るのを待った。


しかし、夜になっても鬼のまま。
あの声も聞こえない。


やがて空腹が再び訪れ
彼女は解決策を求めて動き出した。


「本当に、とんでもない数日だった」


湯から上がり、静かに息を吐く。
やがて彼女は久しぶりの布団に身を沈めた。


柔らかく、温かい。まどろみの中、夢を見る。
そこには神友メヒルの姿。そして激しく叱られる自分。


「ごめん。メヒル」といって目が覚めた。


どうやら明晰夢だったらしい。


翌日。


メネイエルはリクザエモンを紹介され
賢人たちが集う屋台へと向かうことになる。

 

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夕刻になると提灯の灯りがともり
まるでそれを合図にするかのように
どこからともなく客たちが集まってくる。


「リクザエモンさんいらっしゃい」


「よう!ジジイ、まだ生きてたか」


店主であるオークの吉田が
穏やかに迎えれば、間髪入れず
赤髪のドラ子が辛辣な言葉を放つ。


ここは、偉大なる創造主が
種族も立場も越えた者たちの
交流の場として創られた森の賢者亭。


「こりゃ!年寄りはもっと大切に扱わんか!」


ドラ子を睨みつけるリクザエモンだが
それは本気の怒りではなく
もはや恒例の挨拶のようなものだった。


そんなやり取りを横目に
青毛が特徴のアズーロが
後ろに控える鬼へ視線を向ける。


「リク爺。元気そうですわね。
後ろのにいらっしゃるのは、鬼の形相になった奥様ですか?」


その一言で場の視線が一斉に集まる。


今夜の顔ぶれは
ドラ子とアズーロの龍族二名に麹の妖精
大天使レミエル、占い師ハテナとその弟子でブラッドワームのナーマ。


そしてリクザエモンと、メネイエルが加わり
さらに、姿を隠した何者かの気配もあった。


「ばっかもん!サチさんは、こんな形相にならんわ!」


「まぁ、キレやすいお年寄りは嫌われますよ?」


小悪魔のように微笑むレミエルに
リクザエモンが「堕天使め」と言い返すと
すかさず「大天使です」と訂正が入る。


やがてリクザエモンが咳払いをひとつ。


「こちらは女神メネイエル様じゃ。この姿のことで相談に来た」


前に出たメネイエルは
鬼ゆえに表情は読みにくいが、
どこか緊張している様子で口を開く。


「わ、わたしは慈愛と灯火と忍耐の女神メネイエル。
いろいろあって、こんな姿になったの。
元の姿に戻りたい・・・・・・。それと、お腹減った」


場の緊張を破るように「ぐぅ~」と腹の音が響いた。


メネイエルは会話が不得手なので
代わりに事情をリクザエモンが話した。


彼が説明を終えたその時
ハテナが静かに口を挟む。


「ところで、後ろに石像が隠れているのだけど」


パチン、と指が鳴る。
途端に石像が姿を現した。


「お地蔵様!」


反応したのはメネイエルだ。
石像は口を動かさぬまま、念話で語り始める。


「わしゃ、ホマレの街道で旅の安全を司る地蔵じゃ」


お地蔵さまは話を続けた。


メネイエルがお供え物を食べたので
ちょっとした罰として鬼の姿にしたらしい。


「ごめんなさい。お腹減ってたの」


メネイエルはお地蔵さまに謝罪した。


「まさか女神様とは思わんかったのじゃ。
戻そうとしたが、うまくいかんでな。こちらこそすまぬ……」


その後、女神様に声をかけずらくなり
姿を隠したまま、様子を見ていたそうだ。


場が一瞬、静まり返る。


「しかし、よくわしを見破ったのう」


「こう見えて、凄腕の占い師ですから」


しれっと答えるハテナに、レミエルがにやりとする。


「その正体は異界からやって来た邪と闇の神ですけどね」


「存在を消し去るわよ」


「冗談です」


軽口を交わす二人は、どうやら仲が良いらしい。

そこへドラ子が「パン」と手を打つ。


「よし、仕切り直しだ!吉田、ジジイと鬼と石像に酒と飯だ!
せっかくだ、レミエルの秘蔵酒を出せ!」


「レミさん、出しちゃていいかい?」 


吉田は確認のためレミエルを見る。


「ダメよ。あれは私専用」


酒造りが趣味の女神が作った渾身の酒『女鹿吟醸』


だが、皆の視線に根負けしたのか、やがて小さく息をついた。

 

「……仕方ないわね。吉田さん、配って」


「はいよ~」


吉田は『女鹿吟醸』を升に注ぎ皆に配った。


「お地蔵さまはどうやって呑むので?」


「ワシの頭上に置いておくれ。しかし、旨そうな酒じゃのぉ」


吉田はそっとお地蔵様の頭上に升を置いた。


升に注がれた酒が
回ったのを確認したドラ子は音頭をとる。


「厄介ごとを持ち込んだジジイと新たな巡りあわせに、かんぱ~い」


乾杯の声が上がる。


ある者は軽くひと口
ある者は一気に飲み干す。


貴重な酒が皆の喉を潤す。


メネイエルはひと口で赤鬼となり
「ヒック」としゃっくりを始めた。


どうやら酒に弱いようだ。


やがて話は本題へ戻る。


「さて」


ハテナが声を上げる。


「そこの鬼っ子だけど、私がいた世界では見たことがないわね。
どんな神格なのか確認をしたのだけど」


「私もみたことない女神さんよ」


ハテナやレミエルも
メネイエルのことは知らないらしい。


「能力を見てみたいナマ~」

 


「わかった。ヒック」


ナーマの言葉に
メネイエルは神意を発動させる。


頭上に放射状の光輪が現れ
幻想的な淡い緑の光が放たれる


「きれいナマ~」


思わずナーマが口にする。


そして光の効果はすぐに現れる。


「お!古傷が消えたぞ。すごいぞ」


「アズーロにやられた、あたしの傷も消えた!」


古傷が消え、痕すら残らない。
吉田とドラ子が驚きの声を上げる。


「癒されるなま~」


ナーマはブラッドワームの姿に戻り
魂が抜かれたかのごとくダレる。


レミエルは好奇心に満ちた顔つきで
光輪に近寄り、じっくりと観察する。


自身の光輪にはないルーン文字に似た紋様を
読み取っているようである。


「これは本物だわ」 と断言し
ハテナの頭上を見る。


「あなたの光輪と比較したいわ。大きさとか輝きとか!」


ハテナは小さくため息をつき
億劫そうに話す。


「私は占い師だなんだから光輪なんて出ないわ」


「ボイド色の輪が出ると思うの。そこに浮かぶ紋様を見てみたいの」


レミエルは花が開いたような
表情でハテナを見つめる。


「あなたの光輪を引き剥がして、部屋の照明にしようかしら」


「ケチ…」


レミエルは不服そうであった。


「盛り上がっているところすまないが、
元の姿に戻してやりたいんじゃ。誰か妙案はないかのう?」


リクザエモンが言うと場が静まり返った。


術をかけたお地蔵さまも、お手上げというから仕方ない。


「この世界にエリクサーはあるのかしら」


ふと思い出したかのようにレミエルが口にする。


「聞いたこと無いのぉ」


リクザエモンは記憶を探るが
思い当たらなかったようだ。


他の客達も同様であった。


レミエルは話を続ける。


「私が移動できる世界に存在していたのよ。なんでも治しちゃう万能薬」


レミエルが取りに行けば?
誰かがそう言う。
もっともな疑問だ。


しかしレミエルは首を横に振った。


「制約があって、好き勝手に物を持ってこれないの」


軽く言っているが
レミエルにしては珍しく、目は真剣であった。


その沈黙を破ったのは
今まで黙っていた麹の妖精だ。


「ボクなら手伝えるかも」


皆の視線が集まる。


「ほんとう?」


「大丈夫だよメネイエル」


麹の妖精は小さく頷く。


彼女はダンジョンの専門家で
リワードに詳しい。


「レミエルが知っている世界の座標をルーンに刻むんだ。
そして特殊なゲートを使って移動するんだ」


「なるほどのぉ」


リクザエモンが顎を撫でる。
妖精は説明を続ける。


「ただし、座標を少しでも間違えたら
時空の狭間を永遠に漂うことになるけどね」


そして妖精は、もう一つの条件を告げる。


「時空の台座が必要になるよ」


「それは何?どこにある?ヒック」


酒が回りつつある鬼の女神に

妖精は指を立てて説明する。


「ルーンを固定するための基点。言わば世界を繋ぐ杭みたいなもの。
場所はもちろんダンジョンさ」


「つまり」


リクザエモンが立ち上がった。


「まず台座を確保。その後、ゲートを開きエリクサーを確保する。
座標を間違えれば全員迷子というわけじゃな」


「爺さん、その通りだ」


麹の妖精がにやりと笑う。
役割は自然と決まっていく。


「承知した。わしとナナセ殿で広報官室向かい冒険者を集める」


「わかった。僕はレミエルとルーンを刻むよ」


麹の妖精が言う。
ハテナは腕を組んで思案顔に。


「これで姿は戻るでしょうけど、あっちの世界に帰れるかは別問題ね」


「そうだわ。鬼になる前に、既に帰れなくなっていたようですもんね」


レミエルが冷静に指摘する。
その言葉にメネイエルは頷き、心が落ち込む。


ここでメヒルの言葉が再び脳裏に浮かぶ。


「もし帰ってこれない時は、下界をしっかり楽しんできなよ!」


(帰れなくても、この人達となら楽しくやっていけそう)


そう思った瞬間
香ばしい匂いとともにドラ子が発言する。


「小難しい話はあとにしてさ

美味しそうな焼きそばができあがりそうだぜ」


「ドラ子さんが全部食べたらダメですわよ」


「うるせーアズーロ」


ちょうどその時。


「焼きそばお待たせ!軟骨のから揚げももうすぐだよ」


吉田が大皿を置いた。
香ばしい匂いが広がる。


ひとまず、ややこしい話は後回し。
メネイエルは箸を手に取り、少しだけ微笑んだ。
問題は山積みだが、ここには仲間がいる。


こうして、森の賢者亭の夜は更けてゆく。


※終了後、イベント当日のセリフを掲載しますので、全体のストーリーをお楽しみいただけます。

 

この記事は、イベントを企画している「イベントモデレーター」のブログのページを引用しています。

引用元のページは 別ウィンドウで開く こちら からご確認いただけます。

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